
現場で守るべき基本と設備面での対策ポイント
「食の安全」を守るために、食品工場では徹底した衛生管理が求められます。
2021年にはHACCP義務化が全国で始まり、中小企業の食品事業者にとっても構造設計・作業工程・日常管理の見直しが避けられない状況となりました。
この記事では、HACCPの考え方を基にした「衛生管理の5原則」と、具体的な設備面の対策方法について、実務の視点でわかりやすく解説します。
✅ 衛生管理の5原則とは?
厚生労働省や各業界団体が指導する**「食品工場の衛生管理の基本5原則」**は、以下の5項目です:
① 清潔区域と汚染区域の区分(ゾーニング)
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加熱前原料/加熱後製品、入荷/出荷などの交差汚染を防ぐ設計が基本
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色分けマット・仕切り壁・エアカーテンなどで明確にゾーンを分ける
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作業者の移動・物の移動経路も動線分離が理想
② 作業員の健康・衛生管理
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手洗い、マスク・帽子の着用、衛生チェックシートの運用
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健康状態の記録・体調不良時の報告ルール整備
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入室前エアシャワーやアルコール噴霧の設置も有効
③ 清掃・洗浄のルール化
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「何を・いつ・誰が・どのように」洗うかを文書化
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器具や床・排水溝も定期的にチェック
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洗浄→殺菌→すすぎ→乾燥までの流れを標準化
④ 防虫・防鼠(ぼうそ)管理
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出入口に防虫カーテン、ドア自動閉、網戸、殺虫灯設置
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排水溝の蓋・メッシュ、防鼠材の隙間封じなども徹底
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定期的なトラップ点検・記録が義務化されていることも
⑤ 原材料・製品・器具の区分保管
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専用ラック・ケースによる原材料・製品・道具の分離
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加熱前後の保管温度管理(冷蔵2〜10℃、冷凍−18℃以下など)
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アレルゲン・異物混入対策のためのダブルチェック体制も推奨
✅ HACCPとの関係性
「HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)」は、食品の安全性を確保するための科学的・工程管理ベースの衛生管理手法です。
項目 | 内容 |
---|---|
危害要因分析 | 生物的・化学的・物理的なリスクの洗い出し |
重要管理点(CCP)の設定 | 加熱温度、pH、水分活性など |
モニタリング・記録 | 温度記録、チェック表の作成・保存 |
是正措置 | 異常が発生した場合の対応手順を明記 |
👉 このHACCPの土台となるのが、衛生管理5原則であり、両者はセットで考える必要があります。
✅ 設備面での具体的対策ポイント
設備設計の段階から衛生管理を意識することが、HACCP対応の第一歩です。
1. ゾーニング設計(清潔・非清潔区域の区分)
加熱前/加熱後エリアを壁・シャッター・間仕切りで物理的に分離
人・物の出入口も別ルートにする設計が理想
フロアの色分け・ライン引きも有効
2. 床・壁・天井の仕上げ材選定
部位 | 推奨仕様 |
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床 | 耐薬品性・防滑・排水勾配付きの樹脂モルタル |
壁 | 不燃パネル+目地なしのシームレス設計 |
天井 | 結露防止材+掃除しやすい表面処理済み |
👉 クラックや水たまりを防ぐことで、菌の温床を作らない環境づくりが可能に。
3. 換気・空調設備
エリアごとの正圧・負圧設定で空気の流れを制御
空気清浄機(HEPAフィルター)や外気遮断構造を併用
熱交換式換気で省エネと衛生性を両立
4. 排水・清掃性の設計
床勾配1/100〜1/200で水たまりのない排水設計
U字溝・防臭トラップ・着脱式グレーチング
排水処理設備や中和槽の導入も検討範囲に
5. 入退室管理と動線の制御
作業員の入口に更衣室 → 手洗い → エアシャワー → 作業場という一方通行動線
外来者・資材の導線も明確に分離
ドアにはオートロック+開閉記録システムの導入例も増加中
衛生管理と設備設計は“最初からセットで考える”
食品工場では、どんなに良い製品でも「衛生リスク」があれば信頼を失う時代です。
そのため、HACCP対応=構造設計+日常運用の両輪が必要不可欠です。
✅ ゾーニング/清掃性/防虫・防鼠/空気制御を設計に組み込む
✅ 作業マニュアルと連動した設計が“管理しやすさ”につながる
✅ 専門業者や建設マネジメント会社との早期連携が成功の鍵