
坪単価・付帯費・インフラまで“見積もりの中身”を解剖
「同じ“工場”なのに、見積もりの桁が違うのはなぜ?」——建設計画の初期で最も多い質問です。
結論から言えば、規模(大工場/中小工場)の違いは、坪単価・付帯費・インフラ費・設計要件に波及し、**総額と投資回収(ROI)**を大きく左右します。
本記事では、大工場と中小工場のコスト構造の違いを、担当者が社内稟議でそのまま使えるレベルまで分解・可視化します。
1. 坪単価に“素の差”はあるのか?——ある。ただし条件付き
一般的な目安(新築・鉄骨造・標準仕様):
| 規模 | 建屋の坪単価目安(税抜) | 備考 |
|---|---|---|
| 中小工場(延床300〜1,000㎡:約90〜300坪) | 50〜80万円/坪 | 平屋中心。仕様の個別性が高いと上振れ |
| 大工場(延床5,000㎡以上:1,500坪〜) | 45〜70万円/坪 | スケールメリットで資材・施工単価が下がる一方、仕様が高度化すると逆転も |
ポイント
スケールが大きいほど仮設・現場管理・運搬の効率で単価は下がりやすい。
ただし大工場はスパン拡大・天井高アップ・耐火区画・クレーン・防爆等の要件が入り、**“高規格化”で坪単価が戻る(もしくは上がる)**ことも。
2. 付帯費・外構費は規模でどう変わる?
建物以外の費用(外構・造成・電力・上下水・ガス引込・排水処理 など)は、規模と敷地条件で跳ねやすい項目です。
| 項目 | 中小工場 | 大工場 | コメント |
|---|---|---|---|
| 外構・舗装 | 200〜800万円 | 2,000万〜1.5億円 | ヤード面積・車種(トレーラー対応)で大きく増減 |
| 造成・地盤改良 | 0〜1,500万円 | 1,000万〜3億円 | 荷重・杭本数・土量が規模に比例 |
| 受変電・高圧設備 | 300〜2,000万円 | 2,000万〜1.5億円 | 大工場は特高・二重化で高額化 |
| 排水・処理設備 | 100〜1,000万円 | 1,000万〜1億円 | 食品・化学はさらに上振れ |
| 設計・監理・申請 | 総工費の8〜12% | 総工費の6〜10% | 比率は下がるが絶対額は大 |
要点
**ヤード(トラックバース・旋回場・雨天荷役)**をどう設計するかが外構費の分水嶺。
受電方式(低圧/高圧/特別高圧)と冗長化は大工場特有のコストドライバー。
産業排水や除塵・脱臭設備は用途依存で跳ねるため、早期の要件確定が必須。
3. 構造・スパン・天井高——“見えない単価アップ”の正体
柱スパン:大工場は10〜12m級を求められることが多く、梁成増・鉄骨量増で単価上昇。
天井高:中小工場は5.5〜7.2m程度が多いのに対し、大工場は8〜12m要求→外皮面積が増え、断熱・空調・照明が重くなる。
クレーン:中小工場は2.8t以下の簡易クレーンが多いが、大工場は5〜20t天井クレーン+走行梁・レール・補強基礎が標準化しやすい。
床:中小はt=150〜180mm・局所補強が多い。大工場は**面補強+高耐荷重(フォークリフト高頻度)**で配筋・厚み増。
→ 同じ“1坪”でも、要求スペック次第で中身が別物になる。これが見積差の主因。
4. 設備費の比率は“規模と用途”で激変
概ねの配分イメージ:
| 規模×用途 | 建屋 | 設備(電気・空調・給排水・搬送) | 外構・インフラ |
|---|---|---|---|
| 中小・一般製造 | 45〜55% | 25〜40% | 10〜20% |
| 大工場・量産生産 | 40〜50% | 35〜50% | 10〜20% |
| クリーン・恒温恒湿 | 35〜45% | 45〜60% | 5〜15% |
大工場はライン数×横展開で設備費が増え、建屋:設備=4:6に寄るケースも。
中小工場は個別最適・選択と集中で、過剰投資を避けやすい(ただし将来増設の余地を設計に残すこと)。
5. シミュレーション:同じ“300坪拠点”でも総額が変わる理由
ケースA:中小工場(延床300坪・平屋・S造)
建屋:300坪 × 60万円=1.8億円
設備:5,000万円(一般空調・配線・給排水)
外構・インフラ:2,000万円
設計・申請等:総額の9%=約2,300万円
→ 概算総額:約2.73億円
ケースB:大工場の一角として同規模ライン新設(同300坪だが仕様高規格)
建屋:300坪 × 72万円(スパン拡大・天井高UP・耐火区画)=2.16億円
設備:1.0〜1.5億円(高天吊照明・動力盤増設・局所排気・搬送)
外構・インフラ:4,000〜6,000万円(ヤード拡張・受変電強化)
設計・申請等:総額の8%=約3,000万円
→ 概算総額:3.86〜4.56億円
同じ「300坪」でも、要件次第で+1〜2億円の差が生じ得る。
6. 土地・立地の影響:地盤・系統・排水の“見えない地雷”
地盤:大工場は荷重・杭本数が増え、改良費が線形でなく非線形に膨張。
電力系統:系統余力が乏しい地域では系統増強負担金/工期遅延のリスク。
上水・工業用水・下水:距離が長いほど引込・受入施設が重く、食品・化学は処理設備でさらに加算。
道路条件:トレーラー進入可否でヤード設計・土地面積が確定→地代・外構費に直結。
7. スケジュールがコストを決める:後出し要件=“予算爆弾”
予算オーバーの典型は設計凍結後の要件変更。特に以下は跳ねやすい:
天井高・スパン・クレーン能力の後出し
防爆・耐火・断熱等級の格上げ
クリーン度(ISO7→ISO5)の途中変更
ヤード機能の拡張(雨天荷役・バース増)
対策:基本設計(概略レイアウト)段階で、**生産技術・物流・設備・品質保証・安全衛生を巻き込んだ“要件の棚卸し”**を完了させること。
8. どちらが“高い”ではなく、ROIで見る
大工場:スケールメリット+高規格化で初期投資は大。ただしライン当たりコスト低減/運用効率で回収。
中小工場:初期投資は抑えやすい。段階増設・モジュール化でROIを確保。
共通:自家消費太陽光×需要平準化×高効率空調はランニング低減に有効。補助金は“ありき”ではなく事業収支で判断。
9. 失敗しないための“規模別”チェックリスト(抜粋)
大工場向け
スパン・天井高・クレーン能力は初期確定
受変電(高圧/特高)・冗長化要求を定義
ヤードの旋回半径・雨天荷役を試算
排水・臭気・騒音の近隣対策を先出し
中小工場向け
増築前提のゾーニング(接続棟・目地計画)
床の局所補強(将来の重量機下)
標準品採用で過剰仕様を避ける
インフラ距離と引込費の有無を現地確認
“同じ坪”でも、要件が変われば別の建物
坪単価はスケールで下がるが、高規格要件が入ると簡単に逆転する。
総額は付帯費・インフラ・設備費の設計で決まる。
重要なのは、設計初期での要件確定と将来拡張の描き方。
社内稟議では、「建屋」「設備」「外構・インフラ」の3本柱で費用根拠を提示すると、合意形成が早い。
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