工場建設を進める際、発注者が早い段階で検討すべき重要なテーマの一つが発注方式です。
発注方式とは、設計、施工、設備、コスト管理、工程管理などを、どの会社に、どの範囲で依頼するかを決める考え方です。一般的には「設計施工一括」「設計・施工分離発注」「CM方式」などの選択肢があります。
工場建設では、発注方式の選び方によって、建設費の透明性、スケジュール、品質管理、設計変更への対応、発注者側の業務負担が大きく変わります。特に工場の場合、建物だけでなく、生産設備、電力、給排水、空調、排気、搬入動線、衛生管理、クリーンルーム、危険物対応などが関係するため、一般的な建物よりも関係者間の調整が重要になります。
そのため、発注者は「どの方式が一番安いか」だけでなく、自社の体制、工場の難易度、スケジュール、コスト管理の方針に合わせて、適切な発注方式を選ぶ必要があります。

工場建設で発注方式が重要な理由
工場建設では、発注方式を明確にしないまま計画を進めると、後から責任範囲や見積範囲が曖昧になりやすくなります。
たとえば、生産設備メーカーとの調整は誰が行うのか、設備基礎は建築工事に含まれるのか、排気ダクトや電源接続はどこまで施工会社が対応するのか、追加費用が発生した場合に誰が判断するのか、といった問題が起こることがあります。
また、発注方式によって、発注者が関与すべき範囲も変わります。設計施工一括方式では、設計と施工を一体で任せやすい一方で、発注前に要求条件を明確にしておかないと、完成後に「想定していた仕様と違う」という問題が起こる可能性があります。分離発注では、設計内容を発注者側で確認しながら進めやすい一方で、設計者、施工者、設備メーカーの調整が必要になります。
CM方式では、発注者側の立場でプロジェクト全体を整理し、発注方式の検討、見積比較、コスト管理、工程管理、関係者調整を支援する役割を置くことができます。ただし、CM方式も万能ではなく、どの段階から導入するか、CM会社にどこまで依頼するかを明確にする必要があります。
設計施工一括方式とは
設計施工一括方式とは、設計と施工を同じ会社、または同じグループに一括して依頼する方式です。一般的には、設計から施工までを一体で進めるため、発注者にとって窓口が一本化されやすく、スケジュール調整もしやすいという特徴があります。
工場建設では、施工会社が自社の施工ノウハウを設計段階から反映しやすいため、工期短縮や施工性の向上につながる場合があります。また、設計と施工の責任範囲が比較的明確になりやすく、発注者側の調整負担を減らしやすい点もメリットです。
一方で、設計施工一括方式では、発注前の要求条件が曖昧なままだと、見積比較が難しくなることがあります。たとえば、複数社に提案を依頼しても、各社が異なる仕様や前提条件で提案すると、金額だけでは正しく比較できません。
また、設計と施工を同じ会社に依頼するため、発注者側がコスト内訳や仕様の妥当性を確認しにくい場合があります。特に工場建設では、生産設備、外構、インフラ、空調、排気、排水処理などが別途工事になりやすいため、見積範囲の確認が重要です。
設計施工一括方式が向いているケース
設計施工一括方式は、以下のようなケースに向いています。まず、発注者が短いスケジュールで工場建設を進めたい場合です。設計と施工を一体で進めることで、設計完了後に改めて施工会社を選定する時間を短縮できる場合があります。
次に、施工会社の技術提案を早い段階から反映したい場合です。たとえば、工期短縮、施工性の改善、コスト削減、標準仕様の活用などを重視する場合、設計施工一括方式は検討しやすい方法です。
また、発注者側に建築専門人材が少なく、窓口をできるだけ一本化したい場合にも向いています。ただし、その場合でも、発注者側で最低限の要求水準を整理しておくことが必要です。
設計施工一括方式を選ぶ場合は、事前に以下の点を整理しておくことが重要です。
- 工場の目的
- 生産品目
- 必要な建物面積
- 生産設備条件
- 必要電力・給排水・空調条件
- 品質管理条件
- 将来増設の可能性
- 希望する稼働開始時期
- 見積に含める範囲
- 別途工事の扱い
要求条件が曖昧なまま一括発注すると、契約後の変更や追加費用が発生しやすくなります。
設計・施工分離発注とは
設計・施工分離発注とは、設計者と施工会社を分けて発注する方式です。まず設計者が基本設計・実施設計を行い、その設計図書をもとに施工会社へ見積依頼や入札を行う流れが一般的です。
この方式では、発注者の要望を設計段階で整理しやすく、施工会社選定時には同じ設計図書をもとに見積比較しやすいという特徴があります。見積条件を揃えやすいため、金額の妥当性や施工会社ごとの差を比較しやすい点がメリットです。
また、設計者が発注者側に近い立場で設計を進めるため、品質や仕様を発注者の意図に沿って整理しやすくなります。食品工場、医薬品工場、半導体工場、精密工場のように、衛生管理、GMP、クリーンルーム、差圧管理、特殊設備が関係する場合は、設計段階で条件を丁寧に整理することが重要です。
一方で、設計と施工が分かれるため、工期が長くなりやすい場合があります。また、設計者、施工会社、生産設備メーカー、発注者の調整が必要になるため、発注者側のプロジェクト管理負担が大きくなることがあります。
設計・施工分離発注が向いているケース
設計・施工分離発注は、以下のようなケースに向いています。まず、発注者が仕様や品質を丁寧に検討したい場合です。工場の機能や品質管理条件が複雑な場合、設計段階で十分に検討してから施工会社を選定することで、見積比較や施工範囲の整理がしやすくなります。
次に、複数の施工会社から同じ条件で見積を取りたい場合です。設計図書や要求水準が整っていれば、施工会社ごとの金額差や提案内容を比較しやすくなります。
また、発注者がコストの透明性を重視する場合にも向いています。設計内容が明確であれば、どの工事にどの程度の費用がかかるのかを把握しやすくなります。
ただし、設計・施工分離発注では、設計段階で決めた内容が施工段階で変更になると、設計者と施工会社の調整が必要になります。特に工場建設では、生産設備の仕様変更や設備メーカーの決定遅れにより、建築設計に影響が出ることがあります。
そのため、設計・施工分離発注を選ぶ場合は、発注者側で以下の管理が重要になります。
- 設計条件の整理
- 設備メーカーとの情報共有
- 見積条件の統一
- 施工会社選定
- 設計変更の管理
- コスト管理
- 工程管理
- 責任範囲の確認
専門工事ごとの分離発注との違い
ここで注意したいのは、「設計・施工分離発注」と「専門工事ごとの分離発注」は意味が異なるという点です。
設計・施工分離発注は、設計者と施工会社を分ける方式です。一方、専門工事ごとの分離発注は、建築工事、電気工事、空調工事、生産設備工事、外構工事などを発注者が個別に発注する方式です。
専門工事ごとの分離発注は、各工事のコストを把握しやすい一方で、発注者側の管理負担が非常に大きくなります。工事間の調整、工程管理、責任範囲の整理、不具合時の対応を発注者が担う必要があるため、建築専門人材が少ない企業では難易度が高くなります。
工場建設では、生産設備工事、電気工事、給排水工事、空調工事、排気工事が密接に関係します。分離発注を行う場合は、どの会社が全体調整を行うのかを明確にしておくことが重要です。
CM方式とは
CM方式とは、コンストラクションマネジメント方式のことです。発注者側の立場で、建設プロジェクトの計画、発注方式の検討、設計者・施工者選定、コスト管理、工程管理、品質管理、関係者調整などを支援する方式です。
厳密には、CM方式は設計施工一括方式や設計・施工分離発注と完全に並列の「施工発注方式」というより、発注者側のマネジメント機能を外部に導入する考え方です。そのため、CM方式は設計施工一括方式とも、設計・施工分離発注とも組み合わせることができます。
たとえば、設計施工一括方式を採用する場合でも、発注者側にCM会社が入ることで、要求水準書の整理、見積比較、提案内容の評価、契約条件の確認を支援できます。設計・施工分離発注の場合でも、CM会社が設計者、施工会社、生産設備メーカーの調整やコスト管理を支援できます。
工場建設では、発注者の社内に建築専門人材が十分にいない場合や、複数の関係者を調整する必要がある場合に、CM方式が有効な選択肢になります。
CM方式が向いているケース
CM方式は、以下のようなケースに向いています。まず、発注者側の人員や専門知識が不足している場合です。工場建設は、建築、設備、法規制、見積、工程、品質、補助金、行政協議など多くの要素が関係します。社内担当者だけで全体を管理するのが難しい場合、CM会社が発注者側の立場でプロジェクトを整理できます。
次に、見積の妥当性やコストの透明性を重視する場合です。工場建設では、別途工事や除外項目が多く、単純な金額比較では判断が難しいことがあります。CM会社が見積範囲や条件を整理することで、発注者が判断しやすくなります。
また、生産設備メーカー、設計者、施工会社、行政、社内関係部署の調整が多い場合にも向いています。特に食品工場、医薬品工場、精密工場、半導体工場のように、品質管理や設備条件が建築計画に大きく影響する工場では、初期段階から調整が必要です。
ただし、CM方式を導入する場合は、CM会社にどこまでの業務を依頼するのかを明確にする必要があります。基本計画だけを支援するのか、設計者・施工者選定まで行うのか、施工段階のコスト・工程管理まで関与するのかによって、業務範囲が変わります。
3つの発注方式の比較
以下は、設計施工一括方式、設計・施工分離発注、CM方式の違いを整理したものです。
| 項目 | 設計施工一括方式 | 設計・施工分離発注 | CM方式 |
|---|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 設計と施工を一体で依頼する | 設計者と施工会社を分ける | 発注者側の立場でプロジェクト管理を支援する |
| 窓口 | 比較的一本化しやすい | 設計者・施工者それぞれと調整が必要 | CM会社が調整支援を行う |
| スケジュール | 短縮しやすい場合がある | 設計後に施工者選定を行うため長くなりやすい | 採用方式によるが、全体工程を整理しやすい |
| コスト透明性 | 条件次第で見えにくい場合がある | 見積条件を揃えやすい | 見積範囲やコストの整理を支援しやすい |
| 発注者の業務負担 | 比較的少ない | 中程度から大きい | CM業務範囲により軽減しやすい |
| 品質管理 | 要求水準の明確化が重要 | 設計段階で品質条件を整理しやすい | 発注者目線で品質・仕様を確認しやすい |
| 向いているケース | 工期短縮、窓口一本化、施工提案を活かしたい場合 | 仕様を丁寧に固めたい場合、複数社比較を重視する場合 | 発注者側の専門人材が不足する場合、調整・コスト管理を強化したい場合 |
工場建設で発注方式を選ぶ際の判断基準
工場建設で発注方式を選ぶ際は、以下の視点で検討すると整理しやすくなります。
1つ目は、工場の仕様がどこまで決まっているかです。生産設備、必要電力、給排水、空調、排気、床荷重、搬入経路などが明確であれば、設計施工一括方式でも比較しやすくなります。一方、仕様がまだ固まっていない場合は、先に基本計画や要求水準を整理する必要があります。
2つ目は、発注者側に建築・設備の専門知識があるかです。社内に建築プロジェクトを管理できる人材が少ない場合、見積比較や施工会社選定、設計変更対応が難しくなることがあります。その場合は、CM方式のように発注者側を支援する体制を検討する価値があります。
3つ目は、スケジュールをどれだけ重視するかです。新工場の稼働開始日が決まっている場合や、補助金の事業期間が関係する場合は、発注方式によって工程が大きく変わります。
4つ目は、コストの透明性をどこまで求めるかです。設計施工一括方式は窓口が一本化しやすい一方で、見積範囲やコスト内訳の確認が重要になります。分離発注やCM方式を活用すると、コストの内訳や比較条件を整理しやすくなる場合があります。
5つ目は、生産設備との調整がどれだけ複雑かです。大型設備、クリーンルーム、GMP対応、排水処理、特殊ガス、危険物、冷凍・冷蔵設備などが関係する場合、建築会社だけでなく、設備メーカーや専門業者との調整が不可欠です。
発注方式を決める前に整理すべき項目
発注方式を選ぶ前に、発注者は以下の項目を整理しておくと判断しやすくなります。
- 工場建設の目的
- 製造品目と生産量
- 生産設備の概要
- 必要な建物面積
- 必要電力・給排水・空調条件
- 品質管理・衛生管理の条件
- クリーンルームや特殊設備の有無
- 用地条件
- 希望する稼働開始時期
- 概算予算
- 社内の意思決定体制
- 建築専門人材の有無
- 見積比較の方針
- 将来増設の可能性
これらが整理されていない段階で発注方式だけを決めると、後から計画変更が発生しやすくなります。
発注方式選定でよくある失敗
工場建設の発注方式選定では、以下のような失敗が起こりやすいです。まず、見積金額だけで発注方式を決めてしまうケースです。設計施工一括方式で提示された金額が安く見えても、別途工事が多い場合や、仕様条件が異なる場合は、総事業費では高くなることがあります。
次に、発注者側の体制を考慮せずに分離発注を選ぶケースです。分離発注はコストを把握しやすい反面、発注者側の調整負担が大きくなります。社内に専門人材がいない場合、設計者、施工会社、設備メーカーの調整が難しくなることがあります。
また、設計施工一括方式で要求水準を十分に整理しないまま発注するケースも注意が必要です。発注前に条件を明確にしないと、契約後に仕様変更や追加費用が発生しやすくなります。
さらに、CM方式を導入しても、CM会社の役割を明確にしないまま進めると、期待する効果が得られない場合があります。CM会社に何を依頼するのか、どの段階から関与するのか、発注者側の最終判断は誰が行うのかを整理することが重要です。
工場建設では「発注方式」と「社内体制」をセットで考える
工場建設の発注方式は、単に外部会社への依頼方法だけでなく、発注者側の社内体制とも関係します。工場建設では、経営層、製造部門、品質管理部門、設備担当、総務、経理、物流部門など、多くの社内関係者が関わります。発注方式を決めても、社内で誰が何を判断するのかが曖昧なままだと、設計変更や承認遅れが発生しやすくなります。
たとえば、製造部門は生産効率を重視し、品質管理部門は衛生・品質条件を重視し、経営層は投資額や回収期間を重視します。これらの意見を整理しないまま外部会社に依頼すると、途中で要望が変わり、コストや工程に影響します。
発注方式を検討する際は、同時に以下の点も整理することが大切です。
- 社内の意思決定者
- プロジェクト責任者
- 製造部門の要望
- 品質管理部門の要望
- 設備担当の確認事項
- 経理・財務上の予算管理
- 稼働開始日の優先度
- 変更時の承認ルール
発注方式と社内体制をセットで整えることで、工場建設プロジェクトを進めやすくなります。
工場建設の発注方式には、設計施工一括方式、設計・施工分離発注、CM方式などがあります。それぞれにメリットと注意点があり、どの方式が最適かは、工場の内容、発注者側の体制、スケジュール、コスト管理方針、品質要求によって異なります。
設計施工一括方式は、窓口を一本化しやすく、工期短縮や施工提案を活かしやすい一方で、発注前に要求条件を明確にしておくことが重要です。設計・施工分離発注は、設計内容を丁寧に固め、同じ条件で見積比較しやすい一方で、発注者側の調整負担が大きくなる場合があります。
CM方式は、発注者側の立場でプロジェクトを整理し、発注方式の検討、見積比較、コスト管理、工程管理、関係者調整を支援する考え方です。設計施工一括方式や分離発注と組み合わせて活用されることもあります。
工場建設では、建物だけでなく、生産設備、インフラ、法規制、品質管理、将来増設まで考慮する必要があります。発注方式を選ぶ際は、金額だけで判断するのではなく、発注者側の体制、見積範囲、責任分担、スケジュール、設備調整の難易度を総合的に確認することが重要です。
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