「自社の工場は排出量取引制度の対象になるのか」
「直接排出10万トンとは、工場単位で見るのか、会社全体で見るのか」
「電力使用量が多い工場も対象になるのか」
「対象外の中小工場でも、取引先から排出量削減を求められるのか」
「ボイラー・炉・乾燥機・空調設備の更新を、いつ設備投資計画に入れるべきか」
2026年度から、GX推進法に基づく排出量取引制度が本格稼働しています。制度対象となるのは、CO₂の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者です。
この「直接排出10万トン」という水準は、かなり大きな規模です。制度対象は全国で300〜400社程度と見込まれる大規模事業者が中心で、多くの中小工場は直接の対象外と考えられます。ただし、取引先から排出量の算定や削減を求められるケースもあるため、設備投資計画では無関係とは言えません。
工場オーナーにとって重要なのは、「自社が制度対象かどうか」だけではありません。制度対象になる場合はもちろん、対象外であっても、今後の工場建設、増築、設備更新、省エネ改修、燃料転換、電化、排熱回収、再生可能エネルギー導入などの設備投資計画に影響する可能性があります。
特に、ボイラー、工業炉、乾燥炉、焼成炉、蒸気設備、自家発電設備、大型空調設備などを持つ工場では、建物計画と設備投資計画を切り離して考えることが難しくなります。
また、「工場で使う電気が多いから直接排出10万トンに該当する」とは限りません。制度対象の判定でまず確認すべきなのは、燃料の燃焼などによって自社から直接排出されるCO₂です。購入電力に伴う間接排出とは分けて考える必要があります。
ただし、購入電力が無関係という意味ではありません。制度対象者が提出する移行計画では、2030年度までの直接排出量・間接排出量の削減目標や投資計画を記載することが求められています。そのため、電力使用量の削減、再生可能エネルギー導入、電化設備への更新も、設備投資計画では重要な検討項目です。
本記事では、2026年度から本格稼働している排出量取引制度について、工場オーナーが確認すべき「直接排出10万トン」の考え方、対象判定で誤解しやすい点、設備投資計画に反映すべき建設・改修のポイントを解説します。

排出量取引制度とは何か
排出量取引制度とは、一定規模以上のCO₂排出事業者に対して排出枠を設定し、実際の排出量に応じて排出枠の保有・取引を行う制度です。
日本では、GX推進法に基づき、2026年度から排出量取引制度が本格稼働しています。制度対象となる事業者は、排出目標量、排出実績量、移行計画、排出枠の管理などに対応する必要があります。
排出量取引制度は、単なる環境報告ではありません。対象事業者にとっては、排出量の算定、年度平均排出量などの届出、移行計画の提出、第三者確認、排出枠の管理、削減計画、設備投資、経営判断に関係する制度です。
工場を保有する企業では、建物や設備の更新タイミングと、排出削減の計画を合わせて検討することが重要になります。
対象は大規模事業者が中心
2026年度からの排出量取引制度では、CO₂の直接排出量が、前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者が対象とされています。
制度検討段階の資料では、対象事業者数は全国で300〜400社程度、国内の温室効果ガス排出量の約60%をカバーする見込みとされています。つまり、制度の直接対象は、相当規模の排出を行う大規模事業者が中心です。
そのため、一般的な中小工場や、燃料使用量がそれほど多くない工場が、直ちに制度対象になるケースは多くありません。
ただし、対象外だから何もしなくてよいというわけではありません。大企業のサプライチェーンに入っている工場では、取引先からCO₂排出量の算定、削減計画、省エネ投資、再エネ利用の説明を求められる可能性があります。また、将来的な設備更新や増産により、燃料使用量が増える場合もあります。制度の直接対象外であっても、建物や設備の更新時には、脱炭素対応を設備投資計画に組み込むことが重要です。
対象となるのは「直接排出10万トン以上」の事業者
2026年度からの排出量取引制度では、CO₂の直接排出量が、前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者が対象とされています。ここで重要なのは、対象判定が「工場単体」ではなく、原則として事業者単位で行われる点です。
例えば、ある会社が複数の工場を持っている場合、1つの工場だけでは10万トン未満でも、会社全体の直接排出量を合計すると10万トン以上になる可能性があります。反対に、大きな工場に見えても、燃料使用量が少なく、直接排出量が10万トン未満であれば、制度対象外となる場合があります。
また、制度上は、親会社と密接な関係にある子会社等について、グループとして一体的に義務を履行する枠組みが関係する場合があります。複数工場・複数法人を持つ企業では、単純に一つの工場だけで判断せず、グループ全体の排出量管理や制度対応方針を確認する必要があります。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 判定基準 | CO₂の直接排出量 |
| 対象規模 | 前年度までの3年度平均で10万トン以上 |
| 判定単位 | 原則として事業者単位 |
| 対象規模感 | 全国で300〜400社程度と見込まれる大規模事業者が中心 |
| 注意点 | 工場単体ではなく、複数事業所・グループ関係の確認が必要 |
| 対象外になりやすいもの | 購入電力に伴う間接排出のみが多い場合 |
工場オーナーは、まず自社の排出量を「工場ごと」だけでなく「事業者全体」で確認する必要があります。
直接排出とは何か
直接排出とは、事業者が自ら燃料を燃焼することなどによって、事業活動から直接排出するCO₂を指します。
工場で直接排出に関係しやすい設備には、以下のようなものがあります。
重油・灯油・都市ガス・LPGを使用するボイラー
工業炉、焼成炉、熱処理炉
乾燥機、乾燥炉
蒸気設備
自家発電設備
熱媒ボイラー
燃焼式空調設備
焼却設備
燃料を使用する加熱・洗浄・表面処理設備
一方、購入した電力を工場で使用することによる排出は、一般的には間接排出として整理されます。制度対象判定の入口では、まず自社で燃料を燃焼して排出しているCO₂を確認する必要があります。
ただし、購入電力による間接排出が重要でないという意味ではありません。制度対象者の移行計画では、2030年度までの直接排出・間接排出の削減目標や投資計画が関係します。対象外の工場でも、取引先への説明やサプライチェーン排出量の観点では、電力使用量や再エネ調達が重要になります。
電気使用量が多い工場でも対象とは限らない
工場オーナーが誤解しやすいのは、「電力使用量が多い工場は、排出量取引制度の対象になる」と考えてしまうことです。確かに、電力使用量が多い工場は、サプライチェーン排出量やScope2の観点では重要です。しかし、2026年度からの排出量取引制度でまず対象判定に使われるのは、CO₂の直接排出量です。
例えば、精密機器工場、電子部品工場、物流施設、冷凍冷蔵倉庫などでは、電力使用量が大きくても、自社で燃料を大量に燃焼していなければ、直接排出量は相対的に小さい場合があります。
一方、食品工場、化学工場、素材工場、金属加工工場、窯業系工場、塗装工場などでは、蒸気、乾燥、加熱、焼成、熱処理などに燃料を使用するため、直接排出量が大きくなる場合があります。
つまり、制度対象かどうかは、工場の面積や電気代だけでは判断できません。燃料使用量、設備構成、事業者全体の排出量を確認する必要があります。
2026年度対象者は初年度の届出期限にも注意する
2026年度に制度対象となる事業者は、2026年9月30日までに、年度平均排出量などの届出と移行計画の提出を行う必要があります。
この記事を読んでいる時点で、2026年9月30日を過ぎている場合、対象事業者にとっては初年度の届出・移行計画の提出期限がすでに経過している可能性があります。対象となる可能性がある企業は、届出状況、移行計画の提出状況、未提出時の対応、今後の排出実績量報告、排出枠管理のスケジュールを速やかに確認する必要があります。
一方、多くの中小工場は直接の制度対象外と考えられます。ただし、対象企業の取引先として、排出量算定や削減計画の説明を求められることがあります。そのため、自社が制度対象でない場合でも、主要取引先からの要請やサプライチェーン上の位置付けを確認しておくことが重要です。
工場オーナーがまず確認すべき排出源
工場オーナーは、排出量取引制度への対応を考える前に、自社工場の排出源を整理する必要があります。
主な確認項目は、以下の通りです。
| 排出源 | 確認すべきこと |
|---|---|
| ボイラー | 燃料種、使用量、蒸気用途、更新時期 |
| 工業炉 | 加熱温度、燃料種、稼働時間、排熱利用 |
| 乾燥設備 | 熱源、運転時間、排気量、熱回収の有無 |
| 自家発電 | 燃料種、運転目的、非常用か常用か |
| 空調設備 | 燃焼式か電気式か、空調対象範囲 |
| 洗浄・表面処理 | 加熱・蒸気使用の有無 |
| 焼却設備 | 廃棄物処理、熱利用、稼働頻度 |
| 既存設備 | 老朽化、効率、更新予定 |
排出量削減を検討する際は、まず「どの設備がどれだけCO₂を出しているのか」を把握することが必要です。建物全体の省エネだけでなく、生産設備や熱源設備の使い方を見なければ、実効性のある投資計画にはなりません。
設備投資計画に反映すべき理由
排出量取引制度が始まると、CO₂排出量は単なる環境指標ではなく、経営コストや投資判断に関係する要素になります。直接排出量が大きい工場では、ボイラーや炉をそのまま使い続けるのか、高効率設備へ更新するのか、燃料を転換するのか、電化するのか、排熱を回収するのかといった判断が必要になります。
設備投資計画に反映すべき理由は、以下の通りです。
老朽設備を使い続けると排出量削減が進みにくい
燃料価格や排出枠価格の影響を受ける可能性がある
設備更新には設計・調達・工事期間が必要
電化には受変電設備や電力容量の増強が必要になる
燃料転換には配管、貯蔵設備、消防、法規制確認が必要になる
排熱回収や省エネ改修は建築設備との調整が必要
補助金や税制を活用する場合、計画時期が重要になる
取引先から削減計画の説明を求められる可能性がある
設備投資は、制度対象になってから慌てて検討しても間に合わないことがあります。工場建設や大規模改修のタイミングで、脱炭素投資を組み込めるかどうかが重要です。
既存工場で確認すべき設備投資の方向性
既存工場では、すべての設備を一度に更新することは現実的ではありません。まずは、排出量が大きく、老朽化しており、更新時期が近い設備から優先順位を付けることが重要です。
主な設備投資の方向性は、以下の通りです。
| 投資方向 | 検討内容 |
|---|---|
| 高効率化 | 高効率ボイラー、高効率炉、インバーター制御 |
| 燃料転換 | 重油・灯油から都市ガス等への転換 |
| 電化 | 電気ボイラー、ヒートポンプ、電気炉への転換 |
| 排熱回収 | 排気熱、温水、蒸気ドレン、圧縮空気熱の回収 |
| 断熱強化 | 配管断熱、炉体断熱、建物外皮断熱 |
| 制御改善 | 稼働時間制御、負荷追従、見える化、EMS導入 |
| 再エネ活用 | 太陽光発電、蓄電池、再エネ電力調達 |
| 工程見直し | 加熱・乾燥・洗浄工程の統合や短縮 |
ここで注意したいのは、電化や燃料転換は設備単体では判断できないということです。電化すれば直接排出は減る可能性がありますが、必要電力が増えるため、受変電設備、契約電力、キュービクル、非常用電源、電気室、幹線ルート、冷却設備などの確認が必要になります。
燃料転換の場合も、燃料配管、貯蔵タンク、消防法、危険物、ガス供給能力、敷地内の配管ルート、既存設備との接続を確認する必要があります。
新工場建設時に確認すべきこと
新工場建設では、建物の基本計画段階から排出量と設備投資を考えることが重要です。
特に、熱源設備、燃料設備、受変電設備、空調設備、換気設備、排熱回収設備は、後から変更しにくい項目です。建物が完成してから「電化したい」「ボイラーを増設したい」「排熱回収を追加したい」と考えても、スペース、配管ルート、電気容量、法規制、消防対応が制約になる場合があります。
新工場では、以下を基本計画段階で整理しておく必要があります。
使用する燃料の種類
ボイラー・炉・乾燥機の容量
将来の燃料転換の可能性
電化した場合の必要電力
受変電設備の余裕
電気室・機械室のスペース
排熱回収設備の設置余地
太陽光発電や蓄電池の設置余地
配管・ダクト・ケーブルラックのルート
将来増設時の敷地・建物の余白
排出量取引制度の対象事業者であるかどうかにかかわらず、将来の脱炭素対応を見据えた工場計画は重要です。特に、長期間使用する工場では、建設時の設備配置が将来の投資余地を決めることになります。
「建物」と「生産設備」を分けすぎない
工場建設では、建物は建設会社、生産設備はメーカー、エネルギー設備は設備会社というように、発注先が分かれることがあります。しかし、排出量削減を考える場合、建物と生産設備を分けすぎると、効果的な投資計画が立てにくくなります。
例えば、乾燥工程の排熱を空調や給湯に使える可能性があっても、建築設備と生産設備の設計が別々に進むと、排熱回収の配管ルートや機械室スペースを確保できない場合があります。
また、電化設備を導入する場合、生産設備メーカーは機械本体の仕様を決めますが、工場側では受変電設備、幹線、電気室、換気、冷却、基礎、搬入経路を確認する必要があります。
排出量取引制度への対応では、建物、ユーティリティ、生産設備、運用条件を一体で考えることが重要です。
直接排出削減で検討しやすい建設・改修項目
工場の直接排出を削減するためには、燃料を使用する設備を中心に検討します。ただし、建設・改修の観点では、単に高効率設備を入れるだけでは不十分です。設備の設置場所、メンテナンススペース、煙突、給排気、燃料配管、電気容量、消防対応、搬入経路まで含めて計画する必要があります。
| 建設・改修項目 | 確認ポイント |
|---|---|
| ボイラー更新 | 燃料種、効率、設置スペース、煙突、給排気 |
| 工業炉更新 | 温度条件、燃料転換、排熱回収、炉体断熱 |
| 乾燥設備更新 | 排気熱回収、運転時間、湿度管理 |
| 電化設備導入 | 受変電容量、幹線、電気室、契約電力 |
| 排熱回収 | 熱需要との距離、配管ルート、熱交換器スペース |
| 太陽光発電 | 屋根荷重、防水、メンテナンス動線 |
| 蓄電池 | 設置場所、防火、換気、系統連系 |
| EMS導入 | 計測点、データ管理、既存設備との連携 |
これらは、建物完成後に追加するとコストや工期が大きくなりやすい項目です。工場建設や大規模改修の段階で検討しておくことが重要です。
排出量取引制度と省エネ法・温対法の違いに注意する
工場では、すでに省エネ法や温対法に基づく報告を行っている企業もあります。そのため、「既にエネルギー報告をしているから排出量取引制度への対応も同じ」と考えてしまうことがあります。しかし、制度ごとに対象、算定方法、報告内容、確認手続きが異なる場合があります。
排出量取引制度では、制度対象となる直接排出量の確認、年度平均排出量などの届出、移行計画、実績報告、第三者確認、排出枠管理などが関係します。省エネ法ではエネルギー使用量や原単位管理が中心になり、温対法では温室効果ガス排出量の報告が中心になります。
発注者は、既存の報告値をそのまま使うのではなく、排出量取引制度の算定ルールに基づいて、自社が対象かどうかを確認する必要があります。
工場オーナーが社内で整理すべき情報
排出量取引制度への対応では、環境部門だけでなく、製造部門、設備部門、工務部門、財務部門、経営層が関係します。
工場オーナーが社内で整理すべき情報は、以下の通りです。
| 整理項目 | 内容 |
|---|---|
| 直接排出量 | 直近3年度のCO₂直接排出量 |
| 年度平均排出量 | 制度対象判定に使う3年度平均の排出量 |
| 間接排出量 | 購入電力等による排出量 |
| 排出源別内訳 | ボイラー、炉、乾燥機、自家発電等 |
| 燃料使用量 | 燃料種、使用量、単価、供給契約 |
| 設備台帳 | 設備年式、効率、更新時期、故障履歴 |
| 生産計画 | 増産、ライン増設、稼働時間変更 |
| 設備投資計画 | 更新予定、脱炭素投資、予算時期 |
| 建物制約 | 電気室、機械室、屋根、敷地、配管ルート |
| 排出削減案 | 高効率化、電化、燃料転換、排熱回収 |
| 届出・移行計画 | 対象者の届出状況、移行計画の提出状況 |
| 取引先対応 | 排出量算定や削減要請の有無 |
| コスト影響 | 初期費用、運用費、排出枠費用、保守費 |
| 意思決定 | 承認者、投資判断基準、実施時期 |
排出量取引制度は、環境部門だけで完結する制度ではありません。設備投資、操業計画、建物改修、財務計画まで含めて判断する必要があります。
設備投資計画の優先順位をどう決めるか
設備投資計画では、すべての排出源を同時に更新するのではなく、優先順位を付けることが現実的です。優先順位を決める際は、以下の視点が重要です。
1つ目は、排出量の大きさです。直接排出量が大きい設備ほど、削減効果が大きくなる可能性があります。
2つ目は、設備の更新時期です。更新時期が近い設備は、脱炭素対応を組み込みやすくなります。逆に、新しい設備を早期に更新する場合は、投資回収や残存価値の確認が必要です。
3つ目は、建物側の制約です。電化や燃料転換には、電気容量、配管ルート、機械室、排気、消防対応が関係します。建物側の制約が大きい場合は、大規模改修や増築のタイミングに合わせる方が合理的な場合があります。
4つ目は、操業への影響です。ボイラー、炉、乾燥設備は生産ラインに直結するため、工事中の停止期間、仮設設備、切替手順、試運転期間を確認する必要があります。
5つ目は、費用対効果です。CO₂削減量だけでなく、燃料費削減、保守費、排出枠コスト、取引先評価、補助制度、品質改善、BCP効果を含めて判断します。
排出枠購入だけに頼るリスク
排出量取引制度では、排出枠の取引が制度の一部となります。そのため、削減が難しい場合に排出枠を購入するという選択肢もあります。しかし、工場オーナーが排出枠購入だけに頼るのはリスクがあります。
排出枠価格が将来どう変動するかは不確実です。また、排出量が多い設備を使い続けると、燃料費、保守費、設備老朽化、操業リスクも残ります。さらに、取引先から脱炭素対応を求められる場合、排出枠購入だけでは評価されにくいこともあります。
そのため、排出枠の活用を検討する場合でも、同時に中長期の設備投資計画を持つことが重要です。
既存工場の改修で起こりやすい課題
既存工場では、脱炭素設備投資を進めようとしても、建物側の制約が問題になることがあります。
例えば、電化設備を入れたいが電気室が狭い、キュービクルを増設するスペースがない、幹線ルートが確保できない、屋根に太陽光パネルを載せる荷重余裕がない、排熱回収配管を通すルートがない、といったケースです。
また、古い工場では、設備図面が不足している、配管ルートが分からない、電気容量の余裕が不明、既存設備の負荷が把握されていないことがあります。
既存工場で排出量削減投資を検討する場合は、まず現況調査を行い、建物・設備・電気・配管・稼働条件を把握することが重要です。
発注者が設計者・施工者へ確認すべきこと
工場建設や改修で排出量取引制度への対応を見据える場合、発注者は設計者や施工者へ以下を確認しておく必要があります。
自社が制度対象事業者に該当する可能性があるか
対象外でも取引先から排出量算定や削減を求められているか
年度平均排出量などの届出や移行計画の提出が必要か
直接排出量の大きい設備はどれか
ボイラー、炉、乾燥機の更新時期はいつか
電化した場合の必要電力はどれくらいか
受変電設備や電気室に余裕があるか
燃料転換時に配管・貯蔵・消防対応が必要か
排熱回収に必要なスペースや配管ルートがあるか
太陽光発電や蓄電池の設置余地があるか
設備更新時に生産停止が必要か
仮設設備や段階施工が可能か
将来の制度変更に備えた余地を残せるか
これらを設計初期に確認しておくことで、後から大きな設計変更や追加工事が発生するリスクを抑えやすくなります。
発注者が確認すべきチェックリスト
排出量取引制度を踏まえて、工場オーナーが確認すべき項目は以下の通りです。
| 確認項目 | チェック内容 |
|---|---|
| 対象判定 | 直近3年度平均のCO₂直接排出量が10万トン以上か |
| 規模感 | 対象は300〜400社程度の大規模事業者が中心だと理解しているか |
| 判定単位 | 工場単体ではなく事業者全体で確認しているか |
| グループ関係 | 親会社・子会社等を含めた対応方針を確認したか |
| 初年度対応 | 2026年度対象者の届出・移行計画の提出状況を確認したか |
| 排出源 | ボイラー、炉、乾燥機、自家発電などを整理したか |
| 電力との区別 | 購入電力による間接排出と直接排出を分けているか |
| 間接排出 | 移行計画や取引先対応では電力使用量も関係することを確認したか |
| 設備台帳 | 設備年式、効率、更新時期を整理したか |
| 設備投資 | 高効率化、電化、燃料転換、排熱回収を検討したか |
| 建物制約 | 電気室、機械室、配管ルート、屋根荷重を確認したか |
| 操業影響 | 工事中の停止期間、仮設、段階施工を確認したか |
| 投資判断 | 初期費用、運用費、排出枠リスクを比較したか |
| 取引先対応 | 排出量算定や削減計画の提出要請があるか |
| 社内体制 | 環境、製造、設備、財務、経営層で連携しているか |
| 外部確認 | 設計者、設備業者、専門家、CM会社へ確認したか |
このチェックリストは、制度対象事業者だけでなく、将来的に対象となる可能性がある工場、取引先から脱炭素対応を求められる工場、大規模な設備更新を予定している工場にも活用できます。
直接対象外の工場も設備投資計画では無関係ではない
2026年度から、GX推進法に基づく排出量取引制度が本格稼働しています。対象となるのは、CO₂の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者です。
この水準はかなり大きく、対象は全国で300〜400社程度と見込まれる大規模事業者が中心です。そのため、多くの中小工場は直接の制度対象外と考えられます。
ただし、対象外であっても無関係ではありません。大企業のサプライチェーンに入っている工場では、取引先から排出量の算定や削減計画の説明を求められることがあります。また、将来の設備更新、増産、燃料転換、電化により、排出量や電力使用量の管理がより重要になる可能性があります。
2026年度に制度対象となる事業者は、2026年9月30日までに、年度平均排出量などの届出と移行計画の提出を行う必要があります。すでに期限を過ぎている場合は、届出・提出状況や今後の対応スケジュールを速やかに確認することが重要です。
工場オーナーがまず確認すべきなのは、自社の直接排出量です。工場単体ではなく、事業者全体で確認する必要があります。また、購入電力による間接排出と、燃料燃焼による直接排出は分けて考える必要があります。
一方で、購入電力は制度対象判定の中心ではないものの、移行計画や取引先対応では重要です。電力使用量の削減、再生可能エネルギー導入、電化設備への更新は、今後の工場投資計画で無視できない要素です。
直接排出量が大きい工場では、ボイラー、炉、乾燥機、自家発電設備などの更新計画が重要になります。高効率化、燃料転換、電化、排熱回収、再エネ活用は、建物計画や設備投資計画と一体で検討する必要があります。
排出量取引制度は、環境部門だけで対応する制度ではありません。工場建設、設備更新、操業計画、財務計画に関係する経営課題です。発注者は、設計初期や改修計画の段階から、直接排出量、設備更新時期、建物制約、投資優先順位を整理しておくことが重要です。
【重要事項】
本記事は、2026年度から本格稼働している排出量取引制度、CO₂直接排出量10万トン基準、工場の設備投資計画、脱炭素対応に関する一般的な考え方を整理したものであり、特定案件の制度対象判定、法令適合、排出量算定結果、届出要否、移行計画の適否、排出削減効果、排出枠価格、投資回収、補助金採択、設備性能、工期、費用を保証するものではありません。排出量取引制度の対象判定、算定方法、届出内容、報告義務、移行計画、排出枠管理、第三者確認、設備投資の要否は、事業者の組織形態、排出源、燃料使用量、工場数、グループ関係、制度運用、関係法令によって異なります。個別案件については、所管行政庁、GX推進機構、環境・エネルギー専門家、設計者、施工者、設備メーカー、会計・法務専門家、CM会社へご確認ください。
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